「ただいま~」と、帰るなり、
「おかえりっ!見てよ!」
リビングで机に向かっていた、カズキとシンジの振り向いた笑顔に、私の疲れは吹っ飛んだ。
「自己採点してたんだよ!英語、オレ100点だよ!」
椅子から飛び上がったカズキが、まだ上着さえ脱いでいない私に、握手を求めてきた。
「・・・?」
帰宅して、いきなりだったので、状況を把握できない。
しかし、このところ、二人とも夜11時を過ぎれば寝ていたのに、この日はまだ11時半を回っていても、二人のはじけるような興奮状態が、リビングに充満しており、明らかに昨日までの、「緊迫の空気」とは違うことは、肌で感じた。
シンジ:「すげーだろ!コイツ。でも、オレも8割超えたよ!!」
今度は、シンジと握手。
カズキ:「ねぇ、見てよ見てよ!!ほら、この長文とかさぁ・・・シンジは分かんなかったんだってさ」
シンジ:「うん、自信なかったんだけど、リスニング対策でずーっとドリッピー聞いてたからかなぁ、雰囲気で選んだのが全部正解だったよ。こことかさぁ・・・」
二人が、いろいろ問題を説明してくれるのだが、スミマセン・・・私にはチンプンカンプンですぅ・・・でも、話から、がんばったことは伝わってくるので、
「すごいねぇ・・・」
と、思ったままを、つぶやいた。もっと気の利いた言葉をかけたいが、こんなすごい問題を解いているのだから、すごいねぇとしかいいようがない・・・
シンジ:「でも、メチャメチャくやしい!オレ、総合点でカズキに1点負けたんだよ!!」
カズキ:「ハハハ。まぁ、しょうがねぇだろ。センターでオマエに負けるわけにはいかねぇよ」
ジンジ:「そんな威張るな!1年浪人してオレと1点差なんだぞ!」
カズキ:「1点差でも勝ちは勝ちだ」
そこに、私を駅まで迎えにきてくれていたダーリンが雪かきを終えて部屋に入ってきた。
ダーリン:「よかったなぁ・・・二人ともよくがんばったな。カズキは2年もよくがんばった。よく勉強した。」
と、声をかけた・・・そのとき・・・・
「ちがうよ、これは家族のおかげだよ。シンジがいてくれたから、本番でも緊張しなかった。ユウジさんや、リカさんや、オサムや・・・みんながいてくれたおかげだよ。絶対ひとりじゃ、センターでこんな点数とれなかったと思う。ほんと、家族がいてくれたおかげだよ。ありがとう」
と言ってくれた・・・
そして私に
「リカさんが、オレに予備校に行けって言って、金も出してくれたからだよ。K塾に行ってなかったらオレは去年と同じだったよ」
とも言ってくれた・・・
私は、涙が出た。シンジは、神妙な顔をしてうなだれて聞いていた。
ヘソを曲げて全く私やダーリンと口をきかない時期もあった。本番で、受験番号が連番であることが分かると「シンジとは他人のふりをする!」などと言っていた。オサムがピアノを弾いているときも「うるさいからやめてくれ!」と怒っていた・・・
でも、彼は、毎日じゃなくても洗濯や風呂掃除をし、私やダーリンが帰りが遅いときは、お米のセットをし、オサムの英検の勉強も見てくれていた。彼は、この1年、長男という仕事をしながら、勉強を続けていたのである。
シンジのたびたび出てくる「オマエは浪人、オレは現役」という言葉に耐えながら、
朝は、あまり水分をとるな!
でも、うんこは全部出していけ!
カロリーメイトゼリーは、休憩時間にチョコチョコ飲め!
換えの下着を持っていけ!
等、シンジに、いろいろと当日のアドバイスをしていた。
シンジに「浪人しているのに、1点差なんてなさけねぇ」などといわれても、その直後に
「オマエがいてくれたから、家で勉強している続きみたいで、すごくリラックスできた」
と言ったカズキ・・・黙ってきいていたシンジはどんな気持ちだったのだろうか?
これで、当日熱でも出さない限り、カズキは大丈夫だろう。そして・・・第一志望の明かりが少々見えてきたシンジは、
「これで、カズキは間違いねぇよな。あとはオレだな・・・やるしかねぇもんな。ここまできたら」
と、カズキがスキップをしながら、自分の部屋へと階段を上っていったあとにつぶやいた。
ありがと・・・そう握手してくれたカズキの右手は、やわらかく、温かかった。彼があのとき、私とダーリンに言ってくれた「家族がいたからだよ」という言葉。そして、「リカさんが予備校に行かしてくれたからだよ」という言葉・・・
あのときの、感無量というか、「私がこの子たちのために、少しでも役立てることができたのだ」という喜びは、何物にも変えがたい。
自分の心が、無限にやさしくひろがっていく・・・
仏様に見つめられたらこんな感じなのかなぁ・・・
富士山の頂上で雲海の日の出を見ながら、温泉に入るとこんな感じなのかなぁ・・・
あんなに大変な「受験勉強」という試練に耐えつつ、愚痴をこぼすどころか、家族みんなに「感謝」のプレゼントをくれたカズキに、ココロの底から手を合わせた。ありがとう、カズキ。私はずっと、これからも、彼らを見守っていきたい・・・ただそれだけを思った。
そして、寝る前、ダーリンに
「元妻さんに、二人の結果、メールしてあげたら?きっと、心配してるよ。二人とも、全く連絡してないみたいだし・・・」
と言ってみた。
「そうだな・・・」
私のココロは、カズキのおかげで、初めて彼らを生んでくれた元妻に感謝をする気持ちを持つことができた。
ステップファミリーになって最高の夜・・・雪降るセンター試験の日。この日を私は忘れない。
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